はじめに
新型コロナウィルスの感染拡大状況が続くなか、本年も「大学の世界展開力強化事業-COIL型教育を活用した米国との大学間交流形成支援」(2018年度採択)のシンポジウムをオンラインで開催しました。本シンポジウムは、米国とアジアの一八の連携校と交流し、意見を交わす場として企画され、全体の参加登録者数は243名、参加者数(アクセス数)は延べ302名に上りました。
今年のシンポジウムは以下の四つの目的に沿って企画されました。「大学の世界展開力強化事業」の連携校と鹿児島大学、そして市民の交流の場を設け、参加者にとって有益な機会となるよう目指しました。
1: シンポジウムのテーマ
現在グローバルな協力のもと取り組まれているSDGsの「ポリティクス」が今年のシンポジウムのテーマとして選ばれました。この取り組みには、分野を超えた共同研究と、経済や環境、社会を横断した議論を必要とするため、本シンポジウムを通してその基礎を築こうと考えました。
2: 学生から市民までを巻き込んだ議論の場
未来の社会と深く関わるトピックについて論じるには、専門家間での議論だけでなく、そこに学生や若手研究者、そして市民による参加が不可欠です。そのため、プレシンポジウム・イベントとして、持続可能な社会作りをテーマとするドキュメンタリー映画の視聴会を企画しました。残念ながら、2022年初頭の新型コロナウィルスまんえん防止等重点措置の適用を受け開催は断念することになりましたが、ここでは、SDGsに関心がある人もない人も参加できる議論の場を提供しようと計画を行いました。
3: シンポジウムの構成
全世界からの参加を可能にするため、本シンポジウムは同期型と非同期型、両方のオンラインシンポジウムとして開催されました。非同期型では1ヶ月の間、場所や時差に関係なく参加できるオンラインフォーラムでの議論を行いました。
4: FD(ファカルティーディベロップメント)
同期型シンポジウムの後半では、グローバルな学びの機会を広げるため、異なる学部に所属する教員と学生によるCOIL(オンライン国際協働学習)の方法や取り組みの結果について情報共有する場を設けました。
プログラム
第ー部:非同期型シンポジウム 2022年2月21日~3月31日
第一部は、鹿児島大学と連携校の学生と教員が参加する非同期型オンラインシンポジウムとして開催され、108名が参加登録をしました。
このシンポジウムでは世界各国の参加者が二人のゲスト講師による講義ビデオを視聴し、ウェブフォーラム上で講義内容に関する質問やコメントを投稿し、他の参加者との議論を行うことができます。フォーラムで出された質問は第二部の同期型シンポジウム中にも取り上げられました。
第一部の講義ビデオの総視聴回数は以下の通りです。
1. 「アメリカにおける倫理的で持続的な方法で生産する牛肉」ジョン・マイケル・ゴンザレス(ジョージア大学農業環境科学部) : 88回
2. 「ビヨンドゼロ社会実現に向けた新しい二酸化炭素のネガティブエミッションテクノロジー」: 53回
第二部:同期型オンラインシンポジウム 2022年3月10日 9:00 – 12:00 JST
日本と世界各国から108名の参加者がZoomで参加しました。
シンポジウム企画: 後藤貴文(鹿児島大学農学部)、 金子芳郎(鹿児島大学工学部)
司会:難波美芸(鹿児島大学グローバルセンター)
開会の挨拶: 佐野輝(鹿児島大学学長)
趣旨説明:中谷純江(鹿児島大学グローバルセンター)
ゲスト講師:ジョン・マイケル・ゴンザレス(ジョージア大学、Department of Animal and Dairy Science)、藤川茂紀(九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所)
ディスカッション・ファシリテーター:野村久子(九州大学農学部)、廣政恭明(九州大学農学部)
ゲストスピーカー:サンチャイ・チャトゥラシター(チェンマイ大学、Department of Animal Science and Aquaculture)、パッタウィン・セッタヤー(チェンマイ大学、Science and Technology Research Institute)
閉会の挨拶: 馬場昌範(鹿児島大学理事・副学長 研究・国際担当)
ゲスト講義①
ゴンザレス博士が「アメリカにおける倫理的で持続的な方法で生産する牛肉」と題する講演を行いました。(事前収録されたビデオはこちら: https://youtu.be/Bs_EaHhPu0w)
講演に続いて本学の後藤博士が指導する学生たちが発表を行い、アメリカと日本、そしてアジアの国々における牛肉生産の方法の違いを示す事例が紹介されました。この発表を皮切りに、質疑応答の時間へと移り、たくさんの質問が参加者から出され、ゴンザレス博士にご回答いただきました。
ゲスト講演②
藤川博士による「ビヨンドゼロ社会実現に向けた新しい二酸化炭素のネガティブエミッションテクノロジー」と題する講義を視聴しました。(事前収録したビデオはこちら:https://youtu.be/6BU8lWSM9aw)。講義ではCO2分離回収(DAC)技術といった、現在、世界中で開発が進められている最新技術や、回収した二酸化炭素のリサイクル技術について紹介されました。
講義終了後、藤川博士と共同研究を進める本学の金子博士の指導を受けている学生たちが、これらの最新技術に関する質問を行い、これに続いて全体の質疑応答時間が設けられました。一つ一つの質問に対し、藤川博士が日英両言語で回答を行いました。
ゲストトーク
二つの講演と質疑応答の後、セッタヤー博士が「タイにおけるSDGsに向けた牛肉生産の取り組み」と題して発表を行い、タイにおける牛肉消費の文化的側面や、持続可能な牛肉生産の研究に対するタイ政府からの支援などについて紹介しました。
パネルディスカッション/全体討論
九州大学農学部の廣政博士と野村博士によるファシリテーションで、パネルディスカッション及び全体討論が行われました。ここでは持続可能な社会に向けたイノベーションと食糧生産技術において鍵となるポイントや問題が取り上げられました。両ファシリテーターがSDGsを探求する上で看過できない重要な課題を提起し、パネラーである学生たち、ゲストスピーカー、一般の参加者たちが、批判的に思考しながらそれぞれの考えを共有しました。全体を通して、世界各国からの参加者が活発に議論を交わす場となりました。議論は適宜翻訳を入れながら英語と日本語の両言語で行われました。
全体討論の最後に、サンチャイ博士がチェンマイ大学で取り組んでいるSDGsに向けた取り組み、特にバイオエコノミーの分野に関する紹介を行いました。
全ての討論と発表を受け、二人のゲスト講師であるゴンザレス博士と藤川博士がコメントを行いました。最後に、ファシリテーターの野村博士が、個々人の日々の選択と決定とがSDGsの実現に向けて重要となる点などについて触れ、全体討論を終了しました。
第二部の閉会の挨拶を鹿児島大学の馬場副学長が行い、午前の部が終了となりました。
アンケート結果
第二部終了時に、シンポジウムについてのアンケートへの協力を全参加者にお願いした結果、2022年3月31日の時点で42の回答が得られ、概ねポジティブなコメントを得られました。アンケート結果は次回のシンポジウム開催のための貴重な資料として使用させていただきます。
第三部:「米国から鹿児島、そしてアジアへ:多極化時代の三極連携プログラム」の取り組み
2022年3月10日 13:00 – 14:30 JST
アメリカ、アジアの大学との三極連携プログラムに参加する教員と学生が、これまでに連携校と行ったCOIL(国際協働オンライン学習)を中心とする、オンラインによる国際交流の事例や方法について情報交換を行いました。また、オンライン国際交流に参加した異なるコースの学生たちが発表することで、参加の感想や学びをコース間で共有する場にもなりました。最後に畝田谷桂子グローバルセンター長より第三部閉会の挨拶がなされ、同期型オンラインシンポジウムの全てのプログラムを終了しました。
コース担当教員の名前と所属、発表タイトルは以下になります。
八代利香(医学部)
2021年度 米韓とのCOIL授業:離島でのバーチャル家庭訪問を教材としたヘルスアセスメント教育
難波美芸(グローバルセンター )
2021年度のブーラパー大学とのCOIL授業、及びウィスコンシン大学とのCOIL授業のための教材作り
中谷純江(グローバルセンター )
サンノゼ州立大学とのCOIL 2021:CostcoとA-Z マーケティング戦略の比較
森田豊子(グローバルセンター )
政府が人々に与える影響を台湾と日本で比較する:台湾成功大学とのオンライン交流(2020)
三浦直樹(共同獣医学部)
共同獣医学部の世界展開力授業とSDGsへの取り組み
木方十根(工学部)
タスキーギー大学とディポネゴロ大学との環境建築デザインコースのCOIL:ヴァナキュラー建築と未来
金子芳郎(工学部)
ノースダコタ州立大学と国立成功大学とのナノバイオコースのオンライン授業の取り組み
石崎宗周(水産学部)
大学院(修士課程)熱帯水産学国際連携プログラム(ILP):フィリピン大学ビサヤス校との事例
侯徳興(農学部)
湖南農業大学との「ファイトケミカルと健康促進機能」についてのCOIL
濱中大介(農学部)
オクラホマ州立大学とメーファールアン大学とのHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point) に関する協同学習
後藤貴文(農学部)
テキサスA&M大学とチェンマイ大学との食糧生産コースの協同学習
畝田谷桂子(グローバルセンター )
ハワイの文化的特徴とSDGsの課題:ハワイを学びハワイを越えて考える