はじめに
2021年3月、鹿児島大学とアメリカ、アジアの連携大学によるヴァーチャルシンポジウムが開催された。シンポジウムでは、コロナ禍において人々の暮らしがどのような影響を受けたのかに焦点が置かれた。
ここでは三つのテーマが設定された――「閉ざされる境」、「つながる技術」、そして「共に創る未来」である。
「閉ざされる境」においては、コロナ禍で私たちの生活が受けた社会文化的影響について議論した。人々の物理的な移動や直接的な接触に対する規制は私たちの日常に大きな打撃をもたらしている。“ハグ”といった文化的な慣習の規制、経済格差の拡大、医療体制の崩壊や差別の助長などの負の側面がこのテーマの下で提起され、さまざまな形で表現された。
「つながる技術」では、ロックダウンされた地域において社会的繋がりが制限される中、それに対処するために普及した様々なテクノロジーに焦点を置いた。教育は、いかにしてこの状況に応えるために進化したのだろうか?ここではZoomやSNS、COILなどのオンライン技術について議論が行われた。
最後に、「共に創る未来」では、いかにしてコロナ後にレジリエントなコミュニティを構築するかが問われた。どのような未来を私たちは望んでいるのだろうか?コロナ後十年の世界を、私たちはどのように想像することができるだろうか?
プログラム
このシンポジウムは二つのイベントで構成された:
セッション1 ヴァーチャル・シンポジウム(2021年3月3日〜2021年3月31日)
鹿児島大学から、本学及び世界展開力強化事業における米国・アジア諸国の連携大学や鹿児島大学の姉妹校の教員と学生に呼びかけ、上記三つのテーマをたたき台に、ビデオプレゼンテーションを通した議論の場を作った。オンラインでの議論の場は、ヴァーチャルシンポジウムのウェブサイト上に設けたコメント投稿機能によって提供された。
セッション2 オンラインシンポジウムとゲスト講義(2021年3月9日15:00-18:00日本時間)
世界保健機構(WHO)のWHO西太平洋地域事務局/事務局長室管理官(法務・危機管理担当)である野崎慎二郎氏によってCOVID-19 Update in the Western Pacific Region and For the Future(「西太平洋地域における新型コロナウィルスの現状、そして未来へ」)と題する講演が行われた。本講演は、八代利香教授(鹿児島大学医学部保健学科看護学専攻)による依頼によって実現した。
全体を通しての参加登録者数は183名に昇り、本シンポジウムへの関心は極めて高かったといえる。
セッション1 ヴァーチャルシンポジウム(2021年3月3日〜3月31日)
以下の表1は日本、アメリカ、台湾、タイ、韓国、そして中国から届けられた全部で二十二のビデオの一覧である。これらのビデオはYouTubeにアップロードされ、シンポジウムのポータルウェブサイトで共有された。通信規制の問題から、中国・湖南省の連携大学とは、本学のメディアサイト・サーバーを通じてビデオを共有した。
コメント機能を用いたオンラインディスカッションは、シンポジウムのウェブサイトから直接行えるようにした。ここでは、様々な国の学生同士が連携大学間で、各ビデオの作成者・発表者とパンデミックについて意見交換をし、自らの経験を共有することができた。
表1 ビデオプレゼンテーション一覧
Theme | Video Title | Presenters | COUNTRY |
Closed Borders | My Experience with the COVID-19 Pandemic | Kate Dietzen (University of Wisconsin La Crosse) | USA |
Closed Borders | Prevention Measures to Protect the Community From COVID-19 Infection | Jaeeun-Kim (Chung- Ang University) | Korea |
Closed Borders | DACA | Leonardo Medina (SJSU) | USA |
Closed Borders | Go to Travel! & Go to Eat! Campaign Suspended Due to Corona Virus | Yin Jianjie (Kagoshima University) | Japan |
Closed Borders / Creating the Future | Homelessness at SJSU | Gabe Contreras (SJSU) | USA |
Closed Borders | The World Under COVID-19 : The effects of beef production in the United States | Professor Stephen B. Smith (Texas A&M University) | USA |
Closed Borders / Connecting Technologies | Life and research under Covid-19 outbreak at Hunan Agricultural University | Professor Jianhua He and Ruizhi Hu PhD (Hunan Agricultural University) | China |
Closed Borders / Connecting Technologies | How to adapt and overcome in light of the COVID-19 Outbreak | Taichi Nakamura, Faculty of Agriculture, (Kagoshima University) | Japan |
Closed Borders | The Impact of Covid-19 In the Veterinary Field | Associate Professor Naoki Muira (Kagoshima University), Nanami Arikawa, (Kagoshima University) Riai Okamoto (Kagoshima University), Juliet Hill (University of Georgia) | Japan USA |
Closed Borders | Students’ life , teachers’ life and ordinary peoples’ daily lives in Taiwan during the pandemic. | Professor Chi Chung CHOU Professor Veterinary Clinical Pathology National Chung-Hsing University | Taiwan |
Closed Borders / Connecting Technologies | Covid-19 and University of Georgia Teaching Hospital | Professor Benjamin Brainard VMD Director of Clinical Research Veterinary Teaching Hospital University of Georgia | USA |
Closed Borders | Our Year Under COVID-19 | A presentation by the Laboratory of Food Function and Nutrigenomics (Kagoshima University). | Japan |
Closed Borders | Effect of COVID-19 on Inter-university Exchange Project | Haru Ueda Graduate School of Science and Engineering (Kagoshima University) | Japan |
Closed Borders / Creating the Future | Infection control measures of Covid-19 in the US, Korea and Japan | Natsumi Abe, Suzuka Sakamoto, Mao Sezaki, Chiaki Tenjin, Miki Yoshimura School of Health Science, Faculty of Medicine, Kagoshima University | Japan |
Closed Borders / Connecting Technologies / Creating the Future | Burapha University 3rd year Japanese Major Students’ Experiences During COVID-19 Pandemic | A video presentation by 3rd year Japanese Major Students from Burapha University (Thailand) | Thailand |
Closed Borders / Connecting Technologies | How the Coronavirus outbreak affected an international student’s life | Jihwan Eum, Faculty of Agriculture, Kagoshima University | Japan |
Closed Borders | Tuskegee University and Life Under COVID-19 | Roderick Fluker Associate Professor of Architecture at Tuskegee University Robert Taylor School of Architecture and Construction Science | USA |
Connecting Technologies | COIL Class Using Videos and Cloud Services as Connecting Technologies | Dr. Yoshiro Kaneko, Professor (Polymer Chemistry, Material Chemistry), Kagoshima University | Japan |
Creating the Future | Creating The Future From Lessons Learned In The Past | A presentation by Berea College (USA) students: Payton Cavazos Jonathan Colins Marley Lawson Hannah Malyuk Elizabeth Owens Peyton Peardon Phurbu Tsetan Hannah Wilson | USA |
Creating the Future | Beef Production and SDGs | Professor Gotoh Takafumi (Meat Science, Kagoshima University) | Japan |
Creating the Future | Beef Production and Market in Thailand | Prof. Dr. Sanchai Jaturasitha Director, Science and Technology Research Institute Chiang Mai University | Thailand |
Creating the Future | Creating the future : Learning SDGs in Kagoshima | Professor Nakatani (Kagoshima University ) | Japan |
セッション2 オンラインシンポジウムとゲスト講義(2021年3月9日15:00-18:00日本時間)
日本時間の15時からZoomで開催され、参加者の数は百五十名を超えた。難波美芸特任講師(鹿児島大学グローバルセンター)の司会のもと開会し、まず八代利香教授によってWHOの野崎慎二郎氏の紹介が行われた。
野崎氏からは、まずこれまでの経歴とWHOにおける現在の職務に関する説明がなされた。野崎氏は2019年にWHO西太平洋地域事務局の法務・危機管理担当に任命されている。この地域における様々なリスクマネージメントに関して指揮を取る立場から、現在のCOVID-19の状況について要点が述べられ、西太平洋地域の国々での感染傾向を示す数値やグラフを用いながら現状についての説明がなされた。SARS-CoV-2の系統樹やウィルスの全球追跡、そしてCOVID-19によるインパクトを受けている脆弱なコミュニティについても述べられた。
ヨーロッパにおいてなぜ感染件数が増加傾向にあるのかという問いにも触れられた。講演の終盤では、本講演のタイトルにもある「未来へ」という視点から、WHOの役割と西太平洋地域事務局がCOVID-19に対してどのように対応しているのかについて語られた。
日英両言語に通じる野崎氏の取り計らいにより、専門的な解説が日英話者両方の参加者にも理解しやすいように、講演は両言語でなされた。
講演終了後には質疑応答の時間が設けられ、スピーカーを通した直接の発言に加え、チャット機能も併用して、全ての参加者が野崎氏に質問できるようにした。チャットに書かれた質問は司会が読み上げ、野崎氏が一つずつ答えていった。連携大学の学生たちはもちろんのこと、当日、鹿児島大学キャンパス内に設けられた会場に集まった看護学部の学生たちからも多くの質問が寄せられた。 極めて活発かつ充実した質疑応答となったために時間内には全ての質問に答えきることができず、野崎氏からは後日、回答を送付してもらうこととなった。後に野崎氏から得られた回答はヴァーチャルシンポジウムのwebサイトに掲載された。
質疑応答後には、本学の候徳興教授(鹿児島大学農学部)がシンポジウム前半部の総括を行い、野崎氏と参加者に向けた感謝を述べた。
休憩時間の後、鹿児島大学の学生と教員、そして引き続き参加可能なオーディエンスを交えて、世界展開力強化事業の各コースの教員を中心に、全体討論が行われた。そしてオンラインシンポジウム全体の閉会の挨拶が畝田谷桂子教授(鹿児島大学グローバルセンター・センター長)によってなされた。
セッション2オンラインシンポジウムとゲスト講義のビデオをリンクから閲覧できます。:
シンポジウム終了時、今回のフィードバックや感想を今後のシンポジウムの質向上に活かすべく、全ての参加者に向けてアンケートの記入が依頼された。
セッション2の様子: