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タイ王国ブーラパー大学日本語専攻学生との同期型COILの取組み (2020年度)

畝田谷 桂子

※以下の記載事項は、下記の抜粋・要約である。詳細は以下を参照されたい。

畝田谷 桂子(2022年2月掲載予定)「オンライン国際交流教育によるグローバルコンピテンス育成の一考察 −タイ王国ブーラパー大学とのオンライン国際協働学習の試み−」『鹿児島大学総合教育機構紀要』第5号

  1. 取組の概要

本取組は、世界展開力強化事業の海外連携校であるブーラパー大学人文・社会科学部東洋言語学科ナンチャヤー・マハカン助教授と、2020年度にZoomを用いて同期型で行った試みである。マハカン助教授が担当した「日本文化」(日本語専攻3年生対象、履修者46名)と筆者の担当した共通教育教養活用科目「留学生のための異文化理解」(学部1年生主対象、履修者37名)で実施した。互いの学期の重複期間の制約から、接続は3回の授業(10月14、21、2日:各90分)となった。使用言語は、日本語である。

  1. 本COILの目的と達成目標

COIL授業の目的は、両大学の科目の目的に照らして、以下4つのグローバルコンピテンスの向上と定めた。1)同世代の異国の学生と接し「個人」として認識することを体感し、無意識のステレオタイプと文化の多層性を理解する。 2)相互理解とコミュニケーションへの積極性 3)対話者の母語以外でのコミュニケーションに対する配慮(鹿児島大学)、日本語の運用機会と運用経験による能力向上(ブーラパー大学)4)互いの国、地域、大学等に関する知識を深め、興味を育む。

  1. 具体的な実施内容

上記の目的に沿って各回授業の内容と活動を定め、以下の表1.の通り行った。

第1回目の「両国/両国人のイメージについて」は、目的1)を意識し、相手大学生が抱くイメージと自己の認識(ブーラパー大生の抱く日本/日本人のイメージ、鹿児島大生の抱くタイ/タイ人のイメージ)との共通点と相違点、また、同じ国の文化圏における個人間の差異と国や文化圏を超えた共通点の発見を意図した。第2回目の「事前課題(聞きたい質問を交換して説明を準備)」は、学生が自由に関心のあるテーマを取り上げて、目的4)と2)が図れるように設定した。第3回目の「事前課題(自国に特徴的な身振りや表情の意味)」は、目的2)、3)、4)全てに広く関わる、非言語コミュニケーションの具体例を互いに挙げて知識を得ることで、その重要な役割を認知し、コミュニケーション能力を上げることを意図した。

第2回目の授業の「事前課題(聞きたい質問交換)」では、ちょうどタイの民主化運動が日本のメディアでも取上げられるほど盛んな時であり、それにLGBTQのインフルエンサーも含めた内容などがみられ、鹿児島大生には民主化運動そのものへの理解をはじめとして、メディア報道と同世代による説明との比較(熱量を感じ取るなど)や、大学生のこのような運動への関わり方の差異について、新鮮な驚きが見られた。ブーラパー大生は、自らが抱えている問題意識を外国人に説明する(しかも、学習言語である日本語で)ことに、新鮮さと大きなやりがい、熱意を感じていたようであった。

使用言語は、ブーラパー大生が日本語専攻3年生のため、事前に担当教員間でブーラパー大生の日本語能力レベルについて情報交換した上で、日本語とした。鹿児島大生にはCOIL授業の前に、今回の目的「3)対話者の母語以外でのコミュニケーションに対する配慮」について、メタ認知を構築する説明を行った。その上で「やさしい日本語」について説明し、練習を行ってCOILに参加した。これらの知識を用いた実践体験として、鹿児島大生は、ブレークアウトルームでの対話コミュニケーションに加えて、ブーラパー大生の書いた授業後のまとめと感想の日本語を直して、自らの感想を添えて返す作業を行った。

互いの学期の都合上、3回の授業しか同期型で繋げないため、事前に双方の学生数が均等になる数(各グループ6〜7名、各大学から3、4名)で13のグループ分けを行い、ブレークアウトルームでは3回を通してメンバーを固定して活動した。各回授業90分のうち30〜45分をブレークアウトルームの活動にして、できるだけ顔の見える関係性を作ることに努めた。併せて、ブレークアウトルームの話合いを実質化するため、授業前に準備課題を課し、授業後に両大学の学生が協働して課外で行う、授業のまとめと感想交換を通してSNSを活用した交流を推奨した。各回授業のまとめも、次回授業の事前課題も、互いに交換する際に教員に提出させ、教員は各グループの交換状況や内容を把握して次回授業に臨み、良いものをメインルームで取り上げて発表させるなど、授業展開に活用した。

「同年代の外国人と直接「個人」として接する体験」の時間をできるだけ多く設けようと企図したこれらの活動から、3週間という短い期間でもやり取りが生まれ、グループ内で課外の学生交流が多く見られた。課外時間に個人の接触を多く生むためにどのような課題を与えるか、課題の実施をどのようにモニターするかは、困難であるが、COIL成功のための重要な要素だと思われる。

4. 結果

授業評価は、大学統一manabaアンケート、筆者作成アンケート、授業振返りによるが、概ね良い結果が得られた。「特に良かった点」の自由記述に、80%が「タイ学生/留学生との交流」と記載しており、「海外の人/タイ人との交流初めて/英語の先生としか接したことがなく、同年代と初めて/他国の人と授業、ここまで深く交流するのも初めて」等、目的1)の交流が高く評価され、学部1年生を主対象とする教養活用科目として、オンラインによって大変意義ある体験が提供できたと考える。また、この他の3つの授業目的に合致した学習成果も数多く確認できた。さらに、変容的学習前後の非認知能力の変化を測定するBEVI(Beliefs, Events, and Values Inventory)を実施した結果、非認知能力の上位グループでは、批判的思考力の有意な上昇が確認できた。