イタリア・フィレンツェ大学建築学部への留学

こんにちは。
鹿児島大学大学院理工学研究科建築学専攻の池上功祐と申します。
私は2019年9月から2020年3月までイタリアのフィレンツェ大学建築学部に協定校派遣留学制度にて留学しておりました。

本来であれば2020年9月までの留学の予定でしたが、昨今の新型コロナウイルス問題によって途中で中断になってしまったため、予定のすべてを完遂することはできませんでしたが、経験できたことを報告したいと思います。

私がイタリアへの留学を決めるきっかけとなったのは、2018年の夏に旅行でフィレンツェを訪れ、数々の教会や都市の広場を体験したことでした。私は大学院で建築学を専攻しているのですが、その中でも建築の歴史や意匠について特に興味を持っていました。今日の日本の建築のデザインと西洋の教会建築は、一見全くの無関係に見えますが、歴史を辿ると決して無関係ではありません。日本にいては学ぶことができない様式建築をこの身で体感したいと思うようになり、1年間の留学を決意しました。

ミケランジェロ広場からの街並み
左側の塔がヴェッキオ宮殿、右側のドゥオモがサンタマリア大聖堂

イタリア共和国の中ほど、トスカーナ州の州都であるフィレンツェは、花の女神フローラの名を由来に持ち、15世紀にはルネサンス文化の中心地として栄えました。赤い瓦とクリーム色の壁の建物の街並みが美しく、町のシンボルであるサンタマリア大聖堂を初めて見たときは、そのスケールの壮大さと緻密なファサードに言葉を失ったことを覚えています。

フィレンツェ大学建築学部は世界遺産でもあるフィレンツェ歴史地区の中に位置し、修道院と刑務所という歴史を経た古い建物を改修して造られた校舎が特徴的です。フィレンツェ大学は他に文学部や法学部もありますが、歴史的エリアの中に位置する建築学部は新しい校舎を作らず、リノベーションによって建築物を活用しているところがイタリアらしいなと感じました。

フィレンツェ歴史地区
歴史地区はエリア一帯が丸々世界遺産となっている

フィレンツェ大学建築学部とアパートの位置
住んでいたアパートは大学から徒歩3分の距離

フィレンツェ大学建築学部エントランス
コールテン鋼とアクリルのサインの調和が素晴らしい

建築学部では、現代建築史と都市計画史、建築設計とランドスケープデザイン等の講義を受ける傍ら、山村集落の壁面調査プロジェクトに参加していました。講義はイタリア語と英語を交えて行われ、独学でイタリア語を勉強していた私には、質問を質問で返す日々で半年間非常に大変な思いをしました。前期のイタリア語の講義をスケジュールの都合で履修することが適わず、後期に受ける予定でいたのですが、留学中止によって後期の授業を受けることができなかったことがいつまでも心残りです。

先生の講義ではイタリア語の資料が用いられ、すべての単語を理解できない私は、目に映る資料を片っ端からスケッチするという方法で毎回の講義を乗り切っていました。先生にスケッチを見せて質問したり、スケッチ上に書き込んでもらったりすることもあったので、絵や図面は万国共通のコミュニケーションツールであることを実感しました。

講義中に描いたスケッチの一部
雑貨店で買ったスケッチブックを何冊も消費しました

壁面調査プロジェクトでは、トスカーナ州の小さな山村集落Gombitelliの調査に同行しました。泊まり込みで集落に出かけ、村の中にある教会や住宅の内壁・外壁の連続写真作成、図面作成を行いました。この作業が本当に大変で、24時間パソコンで解析を行い、画像処理ソフトを走らせていたため、最終的には私のノートパソコンが壊れてしまいました(後日知り合いにパソコンを貸してもらうことで事なきを得ました)。

Gombitelliの航空写真
険しい山の斜面にある、かつては鍛冶で栄えた村

村の風景
山並みと古い家々が美しい

作成した住宅の連続壁面写真の一つ
数百枚の写真を専門のソフトで解析し、それを画像処理ソフトで編集したもの

写真から描き起こした立面図のCAD図面
この作業に最も時間がかかる。同じような画像を10枚程度作成した。

調査チームのメンバーは英語が得意ではなく、イタリア語・英語でのちぐはぐな意思疎通の中なんとかプロジェクトをやり遂げることができました。一番大変だった分最も思い出に残った経験となり、またイタリアに行くことがあれば彼らとまた会いたいと思います。

調査チームメンバー
合宿先ではジェノヴェーゼやアラビアータなど毎日違う種類のパスタを食べました

鹿児島大学の建築学科の先生もフィレンツェ大学の建築学部の先生も、同じことを仰っていました。「座学で建築を学ぶことも大事だが、実際に建築を訪れ、空間を体験することが最も勉強になる」と。私も一介の建築学生なので、暇な日は街へ繰り出し、沢山の建築を見て回っていました。サンタマリア大聖堂やコロッセオ、ピサの斜塔などはどのガイドブックにも載っている建築なので、今回は私のおすすめの建築を紹介します。イタリアに行く際はぜひ訪れてみてほしいと思います。

サンミニアートアルモンテ教会/フィレンツェ
フィレンツェ歴史地区の端にある丘の上の教会

数々巡った教会の中でも、私が最も推したい教会は、フィレンツェのBasilica di San Miniato al Monteです。ロマネスク様式の美しい教会で、中には装飾品や芸術品も多数収められています。フィレンツェには多くの教会があり、どれも多くの人集まる場所となっていますが、サンミニアートアルモンテ教会は他の教会と違い非常に厳粛な空気感を醸し出していました。

リオラの教会/ボローニャ
建築家アルヴァ・アアルトがイタリアで設計した唯一の教会

様式的な教会ではなく、現代的な教会でお勧めしたいのは、ボローニャ県のリオラにあるリオラの教会です。設計したアルヴァ・アアルトは北欧フィンランドを代表する建築家ですが、イタリア国内にあるアアルト建築は、このリオラの教会だけです。教会というと線対称というイメージがあると思いますが、この教会は平面、断面ともに非線対称で、上部の窓から差し込む光や建物に使われる材料がとても自然で、やわらかい印象を受けました。

サン・カタルド墓地/モデナ
建築家アルド・ロッシ設計の共同墓地

墓地と聞くとぎょっとする方もいると思いますが、この墓地を設計したイタリア人建築家アルド・ロッシは、世界中の建築学生で知らない人はいないくらい有名な建築家です。彼の処女作であるこの墓地は、彼の死に対する思想を感じさせ、力を感じさせる建築でした。

今回イタリアに住んで、食文化の違いには、やはり大きなショックを受けました。日本では毎食違うおかずを準備し、時にはご飯ではなくパスタやうどんなど、様々なものを日常的に食べますが、イタリアでは基本、毎日同じものを食べます。ジェノベーゼやポモドーロなどの味の違い、スパゲッティやペンネなどの形の違いはありますが、食べるものは主にパスタです。どれもおいしいので食生活には全く不満はなかったのですが、様々な国の料理を日常的に作って食べる日本の食卓は、世界的に見れば珍しいものなのかもしれないと思いました。

そして、たまに食べるピッツァの大きさには毎度驚かされました。日本では注文したピザを数人で分けて食べるのが普通ですが、イタリアでは直径30cmもの大きなピッツァ一枚で、一人前です!食べきれるかなと毎回不安になりながら注文するのですが、おいしいのでこれも全く問題なく平らげていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アパートの中の仕事場の様子
5階建てのアパートの屋根裏部屋だったので、自然光の下で勉強できるのは快適でした

自炊で上達したパスタ料理
一日二食パスタを食べる生活を半年間続けると、体重が10kg落ちました


おいしいピッツェリアのピッツァ
イタリアのピッツァは一人一枚が一般的です。この大きさで1000円程度!

最後に、留学を通して感じたことを書き留めておきたいと思います。
留学をして、慣れない環境に強制的に身を置いたことで、自分は何ができるか・何がしたいのかを客観的に見つめ直すことができました。日本にいる間は、鹿児島でも都会でも基本的にやることは変わりません。知りたい情報は日本語で手に入り、見知った間柄の中でやり慣れたことを続けておけば、大きな問題は起こりません。それが海外で生活するとどうでしょう。知りたい情報を知るための方法がわからず、次にしなければならないことを誰に聞けばいいのかわかりませんでした。
知り合った人脈の中で、自分にできることを続けていると、だんだんと要領がわかってきます。ここで、日本にいたときと同じように生活しては、せっかくの留学の意味がありません。生活に慣れてきてからは、自分磨きもかねて、今までとは違う新しいことに挑戦してみました。周囲にお洒落な服を着た学生が多いので、友達と少し高級なブティックに出かけたり、日本語を勉強したいイタリア人学生と言語交換を行ったり、これまで経験したことのないことを少し背伸びして試していると、自分の新しい趣味とか、こんな特技があったんだとか、自分の新鮮な一面に気づくことができました。

留学先で専門の勉強をすることはもちろん大事ですが、せっかく手に入れた今までにない環境で、新しいことに挑戦しないことはもったいないのかもしれません。思い切り奇抜な服を着て町を歩いてもいいし、料理を研究して自炊に目覚めてもいいし、旅先で芸術感を身に着け自分で創作活動を始めてみるのもアリだと思います。周囲には留学前のあなたを知る人間はいませんし、イメージと違うなんて言って顔をしかめる人間もいません。

そうしているうちに、留学先の国の文化を知り、人を知り、最終的には己を知ることにつながります。自分で考えて積んだ経験は、自分の言葉で何かを語るときに大きな助けとなるはずです。コロナで受講予定だった講義や設計課題を完遂することはできなかったため、目に見える成果物は乏しい結果になってしまったのですが、その不足分に足るくらい自分自身の成長を感じることができたため、この留学は決して無駄にならないことを確信しています。

これから留学する人も留学を今悩んでいる人も、留学中に行ったすべてのことが血となり肉となるので、自信をもって新天地での生活を頑張ってほしいと思います!

ミケランジェロ広場から