台湾で見つけた、タブーの先にあるもの ~「個人的なこと」が「社会的なこと」に変わる場所~

 こんにちは!法文学部人文学科多元地域文化コース3年の吐師みのりです。2025年9月から台湾の淡江大学に留学しています。

 私は日台のジェンダー意識の違いを知ることを大きなテーマとして留学をしているのですが、この数か月の台湾生活を通じて、大学での座学にとどまらず、様々なリアルな気づきを得ることができています。

 今回のブログでは、そんな意識の違いのなかでも特に印象的だったトピック、日本ではタブー視されがちな「生理」について、実際の経験をもとにご紹介したいと思います。

(※なお、医学的・学術的には「月経」という呼称が正確ですが、本ブログでは一般的に浸透している「生理」という表現を使用します。)

■ 台湾の大学にある「生理休暇」システム

 まず、私が台湾における生理事情に関心を持ったのは、大学が認定する「生理休暇申請」の存在を知ったことがきっかけです。私の通っている淡江大学では、女子生徒が毎月生理休暇を取得することができるシステムがあります。取得方法は非常に簡単で、生理に関する体調不良によって欠席を希望する日付をWeb上で申請し、指定の機械で証明書を印刷、該当する授業の担当教員に渡すというものです。このようなシンプルな申請によって、欠席が公欠扱いとなります。ちなみに、生理休暇のほかにも育児休暇や流産休暇なども学生の権利として明記されています。

 私自身、生理痛などの症状が比較的重く、中高生の頃はしばしば学校を欠席していました。しかし大学生になると週に1度しかない授業を欠席するのはためらわれ、体調が優れなくても多少無理をして授業に参加するということが少なくありませんでした。周囲の友人でも、成績評価等への影響を心配して、「布団から出られないほどの痛みでない限りは欠席できない」といった話を耳にすることがありました。
 ところが、留学先の大学のこのようなシステムを知ったことで、必要に応じて休みを取ることができるようになり、生理による体調不良時に「自身の体調不良を優先して休んでも良いのだろうか」と迷う精神的ストレスがかなり軽減されました。もちろん授業の欠席はあくまで最終手段であるとの理解が基本にありますが、大学側が正当な権利として制度を確立し、実用化しているという状況は、生理にまつわる症状で悩みを抱える学生にとって大きな安心材料となり、長期的なメンタルヘルスやモチベーションの維持につながるだろうと実感しました。

■「生理」をめぐる実情

 ちなみに、世界で初めて生理休暇を法制化した国は日本だということをご存じでしょうか。実は戦後間もない1947年には労働基準法で制定されており、現在でも日本以外の国で生理休暇を法制化している国は、世界でわずか数か国(約6か国・地域)と言われています。そんな長い歴史を持つ日本の生理休暇制度ですが、周知のとおり実態が伴っているとは言えません。

出典:厚生労働省 働く女性と生理休暇について(https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001150877.pdf

 厚生労働省の「雇用均等基本調査」によると、女性労働者のうち、生理休暇を請求した人の割合は、1997年の3.3%から2020年には0.9%にまで減少しているなど、制度が十分に活用されているとは到底言えない状況にあります。
 このような形骸化した制度の見直しに加え、近年では学生にも生理休暇取得を認めるよう求める運動が行われていますが、いまだ本格的な導入には至っていません。 

 そんな日本で生まれ育った私にとって驚きだったのは、冒頭紹介した大学の生理休暇制度が多くの女子学生に利用されているということだけではなく、このシステムの存在を教えてくれたのが男子学生であったということです。
 日本では、ここ数年で大きく状況が変わってきているとはいえ、いまだ生理は公共の場では“タブー”扱いであるというような印象を受けます。私自身も小中学生のころ、女子学生のみが集められ男子学生とは別室で生理に関する説明を受けた記憶があります。

 一方で台湾では、企業と同様に、小学校・中学校・高校・大学でも生理休暇が導入されており、月1回の生理休暇の取得が可能になっています。また、2004年に制定されたジェンダー平等教育法により、台湾の小・中学校では毎学期4時間の関連授業や活動が義務づけられ、高校でもジェンダー平等教育を教育課程に取り入れることが定められているそうです。特筆すべきは、日本の「保健体育」のような特定の教科だけでなく、すべての学習領域でジェンダー平等教育を融合的に進めることになっていることです。

 このような徹底した教育背景があるからこそ、日常会話のなかでのフラットなトピックとして生理が存在しているのではないでしょうか。このように、「女性」という属性に閉じられた話題やタブーではなく、広く共有されている空気感に、日本との制度以上の違いを感じました。

■世界で唯一、生理をテーマにした博物館

 このように、生理に対してオープンな台湾の姿勢を象徴する場所が、台北の街中にも存在しています。台湾の首都台北市にある「小紅厝月經博物館」は、アジアで初めて、そして現在では世界で唯一の月経博物館です。
 ここからは、実際にこちらの博物館に足を運んで実感した、独創的な展示とメッセージについてご紹介します。

 まず、博物館の概要について簡単に説明します。2022年夏にオープンしたこの施設を運営しているのは、生理を巡る不平等や貧困といった問題に取り組む台湾のNPO法人「小紅帽 With Red」という団体です。(小紅帽は中国語で“赤ずきん”を意味します)代表のヴィヴィ・リンさんは、生理に対する偏見やネガティブなイメージの背景として、人々が生理について正確な情報を知らないという根本的な問題があると感じていました。そこで、生理について正しい知識を得たり、オープンに話し合ったりすることのできる空間を作りたいとの想いからこの博物館を設立したそうです。

 続いて、実際に館内で目にしたユニークな展示をご紹介します。

 博物館内には、月経に関する基本情報や月経前症候群(PMS)の症状などを分かりやすく解説したパネル展示や、実際に触れることのできる模型などがあります。体験的に学べるブースが多く、視覚的にも親しみやすいデザインが多いことが印象的でした。生理に対するネガティブなイメージを払拭し、語ることへの心理的ハードルを下げるための工夫が随所に凝らされていることを実感しました。

 こちらのブースでは、多種類のナプキンに加えて、ショーツや月経カップなど様々な種類の生理用品が展示してありました。初めて目にするものも多く、同行してくれた友人との会話も自然に弾みました。

 また、生理に関する世界中の図書や教材を集めたブースもありました。特に小学生を対象としたオリジナルの教材は、イラストが豊富で分かりやすいだけではなく、指導者用のきめ細かなガイドラインまで加えられており、年齢や性別を問わず、生理を身近に感じながら、正しい知識を得ていくことが可能になるだろうと感じました。

 最後に、この博物館が伝統的な市場が立ち並び生活感あふれる場所に位置していること、また訪れる人のうち約4割が男性であるということに驚きました。「この博物館が市場に買い物に行くぐらい日常的な場所になってほしい」という設立団体の願いがまさに実現されていることが伝わり、老若男女が訪れ、生理について学んだり語ったりするこの場所が果たす意義を実感しました。

 ちなみに、この博物館について日本語で分かりやすく紹介されている動画がYouTubeにありましたので、興味のある方はぜひ視聴してみてください。(https://youtu.be/fK0iI4gMRXc?si=k27lh6ZWS-mbLR8u)

■まとめ 

 このように台湾では、今回取り上げた「生理」に限らず、日本でタブー視されがちなトピックであっても、個人の問題にとどめることなく、社会的な話題として扱う意識が人々の間に存在しています。このような空気感は、教育的背景や工夫された働きかけによって培われていく、他者のトピックを“自分事”として捉え、コミュニケーションや学習を通じて理解しようとする姿勢によって醸成されているものなのではないかと考えました。
 残りの留学生活においても、現地ならではの生活や人とのかかわりの中から気づきを得ながら、たくさんのことを吸収していきたいと思います。