先住民の権利から考えるオーストラリアの多様性(オーストラリア・シドニー工科大学)

 こんにちは。私は2023年7月からオーストラリアのシドニー工科大学(UTS)に留学しています、法文学部人文学科多元地域文化コース3年の前薗真鈴です。ここでは、留学して気づいたオーストラリアの先住民の権利と多様性について紹介します。

 突然ですが、みなさんはこの旗を見たことはありますでしょうか。

 留学生活が始まってから数日後に、写真のような旗が街中にあることに気づきました。何の旗だろうと思いインターネットで調べてみたところ、上の写真がオーストラリアの先住民であるアボリジニの旗で、下の写真がトレス海峡諸島民の旗でした。この2つの旗は、1995年7月にオーストラリアの国旗として宣言されたそうです。オーストラリアに来る前までは、この2つの国旗のことを知らなかったです。

 この2つの旗をきっかけとして、オーストラリアに来てから、先住民の権利と多様性について考えさせられる機会が多くありました。オーストラリアの先住民ついて学ぶようになったのは、私がUTSでとっている授業です。前の学期では、オーストラリアの先住民について授業の中でふれる機会がありました。1つの授業は、Sustainably in Context という授業です。オーストラリアの先住民は、動物や人間など、地球に存在するものは全て互いに関係していると捉えていることや先住民のことばが失われている現状などを学びました。2つ目の授業は、Strategic Communication in Societyという授業で、メディアでどのように先住民に関する問題が取り上げられているのかを学びました。メディアによって先住民の問題の取り上げ方が異なっていて、メディアの取り上げ方が人々の意識に影響を与える可能性があることを学びました。このように、UTSの授業において、オーストラリアの先住民についてふれました。

 なぜ私がこのように先住民のことについて学ぶ機会があったのかが気になったので調べてみました。UTSのウェブサイトを調べてみると、Centre for the Advancement of Indigenous Knowledge (CAIK)という機関があることがわかりました。このCAIKは、オーストラリアの先住民の人々の権利が保障されることを支援したり調査したりする機関となっています。CAIKは、Faculty of Science and Social Sciences (FASS)という学部の中に設立されている機関です。私がとった3つの授業は、このFASS がコーディネートしている授業でした。このことから、私がとった授業でオーストラリアの先住民について学ぶ機会があったのではないかと考えています。

 さらに、オーストラリアのいくつかの博物館を訪れることによって、オーストラリアの先住民の歴史や文化について学ぶことの重要性を実感しました。私は、これまでシドニー、キャンベラ、ケアンズ、パースの美術館や博物館を訪れました。どの地域の美術館もしくは博物館においてもオーストラリアの先住民に関する展示がありました。以下の写真は、美術館や博物館で見た先住民に関する展示です。

▲写真6 The Aboriginal Memorial という作品です。17世紀から20世紀前半までに、植民地化によって亡くなった先住民を忘れないためのものだそうです。

▲写真7 先住民の言語を表した地図です。多様な言語が存在していることがわかります。しかし、これらの言語は失われつつあります。

 例えば、キャンベラの国立博物館では、先住民の歴史に関する展示がありました。私は、展示を見るまでオーストラリアの先住民の人々の過去の悲劇について知りませんでした。展示を見る中で、先住民の人々は、ただ先住民だという理由だけで殺害されてしまったり、親と子どもが引き離されてしまったりするという事実があったことを知りました。特に印象的な展示が2つありました。1つ目は、’There only crime was born Aboriginal’と書かれた文字とアボリジニの人が牢屋に入れられている絵です。罪を犯していないのにも関わらず、アボリジニとして生まれたことを罪とされてしまったという悲しい事実があることを知りました。

 2つ目は、“austracisim”と大きく書かれた展示です。“I’m not racist but… I don’t know why Aboriginal people can’t look after their houses properly…”というようなI’m not racist but…から始まり、先住民に対する偏見や差別的な考えが書かれた文章が小さく書かれていました。オーストラリアは多様性を広く尊重するイメージがありましたが、実際には目に見えない偏見や差別が今でも起きているのではないかと考えました。

 オーストラリアのいくつかの美術館や博物館を訪れてみて、なぜ各地域で、先住民に関する展示があるのかということを疑問に思ったので、実際に調べてみました。オーストラリア博物館のウェブサイトを調べたところ、先住民の文化的な展示に関する説明が掲載されていました。ウェブサイトには、「博物館では、世の中におけるオーストラリアの先住民の理解を深めるために、先住民が創り出したものを積極的に展示する」といった内容の文章が記述されていました。

 さらに、オーストラリア政府のウェブサイトを調べたところ、“Aboriginal and Torres Strait Islander Heritage Protection Act”という先住民の遺産保護に関する法律がありました。さらに、オーストラリア政府だけではなく、州ごとに先住民の土地や遺産を守る法律も制定されています。

 このように、オーストラリアでは先住民の権利を守るために、先住民の遺産に関する法律が制定されていたり、博物館や美術館などにおいて、先住民の文化や歴史を継承していくための展示が行われていたりするのではないかと考えました。

 オーストラリアに留学する前は、多文化国家のオーストラリアというと、外国人の受け入れのことのみを考えていたのですが、実際は外国人だけではなく、先住民への権利保障を含めた’多文化’国家を意味しているのではないかと考えるようになりました。一方で、多文化国家のオーストラリアにおいても、先住民に対する偏見や差別も存在しているのではないかとも考えました。

 日本においても、アイヌ民族など、先住民の問題は存在していますが、あまり問題に目を向けられていないのが現実ではないかと考えられます。日本において、多文化共生を実現していくためには、外国人や先住民の権利の保障などが重要になってくるのではないかと考えました。残りの留学生活においても、先住民の権利や多様性について目を向けていきたいと考えています。